DNA損傷検査

外乱因子(放射線・化学物質)によるDNA損傷を検査します。

がん化要因の100SNPs(マーカー)を総合的にスクリーニングすることによりそれら損傷の度合いや将来的なリスク予測に役立ちます。検査にあたりインフォームド・コンセントが必要です。また、詳細な検査手順などご案内申し上げますので下記お問い合わせメールまでご連絡をお願い致します。

DNA修復はよく道路や線路の修繕工事に例えられます。DNAが損傷を受けていないか、常に監視する係(タンパク質)がおり、損傷を見つけるとそこに結合して、実際の修復作業を担当する実働部隊を呼び込むのです。1個の細胞に含まれるゲノムDNAは一直線に伸ばすと2メートルにもなる長大なものであり、その全体を絶えず監視しながら、発生したわずかな損傷を見つけ出すのは容易なことではありません。DNA損傷を見つける最初のステップ(損傷の認識)は、修復全体の効率を左右する大変重要なものです。

私たちはXPの原因遺伝子産物の一つであるXPCタンパク質が、ヌクレオチド除去修復で損傷の認識にあたる「監視役」であることを明らかにしました。XPCタンパク質は、紫外線や種々の化学物質によって生じる多彩なDNA損傷を見つけて結合する性質を持っています。このXPCタンパク質の結合が引き金となって他のXPタンパク質を含む20種類以上のタンパク質が損傷部位に呼び込まれ、DNAの2本の鎖のうち損傷を含む方の鎖の2か所に切れ目を入れることにより、短いDNA鎖として損傷を切り出します。その後、取り除かれた部分のDNA鎖が反対側の無傷のDNA鎖を鋳型として合成し直され、元通りのDNAが正確に復元されます。

XPCタンパク質は、紫外線や発がん物質によって発生するさまざまなDNA損傷を見つけて修復を開始することができますが、個々のDNA損傷はお互いにまったく違った化学構造を持っています。タンパク質は1種類なのに、なぜこのように多彩な損傷に対応できるのでしょうか? DNAの2本の鎖は、4種類の塩基が決まった組み合わせ(AとT、GとC)でペア(塩基対)をつくることによってお互いに結合しています。この塩基の組み合わせが間違っていたり、損傷によってDNAの構造に歪みが起こると正常にペアをつくれずにフラフラする塩基が現れます。私たちの研究から、XPCタンパク質はこのペアをつくれない塩基を見つけてDNAに結合することがわかりました。つまり損傷自体の構造はどうあれ、塩基対の形成に異常が起こりさえすればXPCはそこに結合して修復を開始することができるのです。ヌクレオチド除去修復が非常に幅広い守備範囲を誇るのは、XPCタンパク質のこのような性質によっています。

一方、XPCタンパク質は単なる塩基の組み合わせの間違い(ミスマッチ)にも結合することができますが、損傷のない所でDNA鎖に切れ目を入れてしまうとDNAの安定性をかえって損なうことになりかねません。実は、ヌクレオチド除去修復にはXPCタンパク質が結合した後、そこに本当に損傷が存在しているかどうかを改めて確認するメカニズムが備わっています。転写因子IIH(TFIIH)複合体の一部であるXPDタンパク質は、DNAの鎖の上を一定方向に移動する性質(ヘリカーゼ活性)を持っています。XPCタンパク質が結合した後でXPDタンパク質がDNA鎖をスキャンし、その進行を妨げるような異常なDNAの化学構造が存在する時にはじめて修復反応が最後まで進むことが、最近の私たちの研究によってわかりました。これはちょうど、線路の損傷によって列車が立ち往生するのに似ています。このような安全装置が働くことにより、ヌクレオチド除去修復の正確さが保たれているのです。

図1 ヌクレオチド除去修復の反応機構モデル


ATMキナーゼはDNA損傷により活性化され、シグナルを伝達する分子(仲介因子、Chk2キナーゼ)のSQ/TQモチーフ及び作動因子のSQ/TQモチーフをリン酸化することによりDNA損傷応答システム全体を制御している。作動因子はリン酸化されることで活性化され、細胞周期の停止、DNA修復、アポトーシスの誘導を制御します。

ATMの活性化とシグナル伝達

 ATMは、PIKKsとよばれるファミリーに属しているキナーゼである(1)。これまで、2量体を形成していたATMが、DNAが損傷にともない1981番目のセリン(Ser1981)を自己リン酸化することで活性化型の単量体になるというモデルが提唱されてきたが(2)、ATMの活性化にはこの部位の自己リン酸化は必要ではないという報告もある(3)。ATMがどのように2本鎖切断DNAを感受するのかという疑問についてはまだ十分な解答が得られていませんが、ATMの活性化にはクロマチンの構造変化やMRN複合体が関与していると考えられています。 
 SQ/TQモチーフを持つ様々な仲介因子は、DNA損傷時に損傷部位に集積し核内フォーカスとよばれる点状の構造体を形成することでATMによるシグナル伝達に関与しています。DNA損傷部位においてヒストンの1種であるH2AXがリン酸化されると、MDC1がこの部位に集積し、引き続いてNBS1、BRCA1、 53BP1、FANCD2、Chk2等がリクルートされます。MDC1、NBS1、BRCA1、 53BP1はBRCTドメインを持つアダプタータンパク質であり、これらは様々なシグナル分子を損傷部位に集積させ、DNA修復やATMによるリン酸化を効率よく行うための足場として機能すると考えられています。
 最近、ElledgeらのグループからDNA損傷依存的にSQ/TQモチーフがリン酸化されるタンパク質を網羅的に同定しようとする試みがなされた(4)。同定された分子の一つは、ファンコニ貧血の原因遺伝子群の中でこれまで未同定であった最後の原因遺伝子FANCIの遺伝子産物であり、FANCIがATMによってリン酸化されることがファンコニ貧血のシグナル伝達において必須であるFANCD2のモノユビキチン化及びDNA損傷依存的なFANCD2の核内フォーカスの形成に必要であることが明らかとなるなど、SQ/TQモチーフの重要性に注目が集まっています。

Chk2の活性化機構とシグナル伝達

 Chk2は、N末端側よりSQ/TQドメイン、FHAドメイン、キナーゼドメインという3つのドメイン構造を持つ。DNAが損傷を受けると、活性化されたATMによってChk2の68番目のスレオニン(Thr68)がリン酸化される。SQ/TQドメイン内の7箇所のSQ/TQモチーフのうちThr68のリン酸化がChk2の活性化に最も重要である。Thr68がリン酸化されると、SQ/TQドメインとリン酸化タンパク質と会合するドメインとして知られるFHAドメインが会合し、Chk2は2量体を形成する。その後、分子内または分子間の自己リン酸化反応の結果、Thr383、Thr387、Ser516がリン酸化され、Chk2は最大限に活性化される。この時、2量体を形成していたChk2は解離して単量体になると考えられています。 
 活性化されたChk2は、癌抑制遺伝子産物であるp53のSer20をリン酸化しp53を安定化させることで、細胞周期の停止やアポトーシスを誘導する。また、活性化されたChk2は、Cdc25ファミリーホスファターゼをリン酸化し、これらのホスファターゼの分解または核外輸送を促進させることでこれらの分子の機能を抑制し、細胞周期を停止させる。さらに、Chk2はPMLやE2F1といった分子をリン酸化することによってアポトーシスを誘導します。

DNA損傷応答の解除機構

 我々は、酵母を用いたtwo-hybridスクリーニング法による探索から、Chk2に会合する分子としてタンパク質ホスファターゼ2C型(PP2C)ファミリーに属するWip1ホスファターゼを単離した(8)。Wip1はDNA損傷時にp53依存的に発現が誘導される分子として同定され、Wip1 (wild-type p53-induced phosphatase 1)という名前はこの経緯に由来している(9)。我々はWip1がChk2のリン酸化Thr68を直接脱リン酸化し、Chk2のキナーゼ活性を抑制すること、及びWip1がDNA損傷時に形成されるリン酸化Chk2の核内フォーカス形成を抑制するとともに、Chk2のキナーゼ活性依存的に誘導されるアポトーシスを顕著に抑制することを明らかにしました。さらに、RNA干渉法によりDNA損傷後に誘導されるWip1の発現を抑制すると、通常はDNA損傷後一過的に観察されるChk2のThr68リン酸化及びキナーゼの活性化がともに長時間にわたって高いレベルに維持され、DNA損傷によるアポトーシスの誘導が増強されることを見出しています。 
 リン酸化を受けたChk2に加えて、Wip1はリン酸化されたATM、 Chk1、 p53をも脱リン酸化することも明らかとなっている(8, 11, 12)。Wip1はDNA損傷シグナル伝達の上流に位置するATMからChk1/Chk2、そしてこれらのキナーゼの標的であるp53に至るまで、多段階にわたり脱リン酸化によりシグナルを抑制していると考えられる。本学会においてもリン酸化H2AXの脱リン酸化にWip1が関与するという報告があり、DNA損傷応答に関わる他のSQ/TQモチーフを持つタンパク質(群)の脱リン酸化・不活性化にも関与している可能性があります。

 

DNA損傷検査の概要 (Sammaly of DNA Reapir Test)

放射線のDNAへの影響(原子力百科事典 ATOMICA)

フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)概要(原子力百科事典 ATOMICA)

Pannel List for DNA Repair Test (DNA損傷検査項目リスト)

Up dated information of IRSN for Fukushima-Daiichi (フランス放射線防護原子力安全所・英文)

Effects of Radiation on DNA <MIT放射線による遺伝子損傷のメカニズム・英文>

Radiation Impact for DNA NASA web-site(アメリカ航空宇宙局・英文)

 


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